外国人観光客の間でもダントツの人気都市、京都。

通訳案内士の数もさることながら、特区通訳案内士、ボランティアガイド、海外からのツアーコンダクターなど、ガイドさんが入り混じった競争の激しいエリアで毎日お忙しく通訳ガイドのお仕事をされている吉原朝子(ともこ)さんに貴重なお話を聞かせていただきました。

 

吉田:   本日はお忙しい中、お時間ありがとうございます!

吉原さん: いえいえ、もう何でも聞いてください!笑

     (明るい笑顔と何とも頼もしい一言で一気に心を掴まれました!)

 

吉田:  では、まずはじめに通訳案内士を志した経緯を教えてください。

吉原さん: はい。大学卒業後、ホテルのフロントに勤務していました。

     その頃はまだインターネットなどはなく、お客さんが通訳ガイドを手配する方法と言ったら旅行会社かホテルフロントを通すしか方法がありませんでした。そのため、お客さんからガイドを依頼された際には、ガイドさんと直接話すことも多く、単純に「かっこいい仕事だなぁ」と憧れてはいましたが 試験は難しいと聞いていたので、その頃は特に通訳案内士になることは考えていませんでした。

    その後、塾で英語の講師をはじめ、通訳案内士資格くらいは持っていた方がいいかと考え英検1級を取得し、晴れて通訳案内士試験に合格しました。

 

吉田:  吉原さんはボランティアガイドも長くご経験されていたのですね。

吉原さん:ちょうど英語講師をしていた頃、あるボランティアガイドのサイトでガイドとサイト運営の手伝いをしてくれる人を募集していたのをきっかけにボランティアガイドを始めました。その後サイト運営を引き継ぎながら、ボランティアガイドを4年ほど経験した後、プロの通訳案内士としてデビューしました。

 

吉田:通訳ガイドとボランティアガイドの違いを実感することなどありましたか?

吉原さん:そもそもボランティアガイドを始めたきっかけは、ガイドの仕事自体に興味があったけれど資格はまだ持っていなかったからなのですが 勉強も頑張ってボランティアガイドながら既にそこそこの評価をされていました。そのため資格取得後、プロとしての付加価値はどこにつけるべきなのか、わからなくなった時期がありました。プロとボランティアの違いはどこにあるのか、と。

吉田:なるほど。

吉原さん:結局は意識の違いだったんですが...主体はどこにあるのか、プロのガイドの基本がわかっていなかったということに気づきました。

   ボランティアガイドをしていた時は基本的に「自分」が英語を話したい、「自分」がガイドをして楽しければいいと思っていました。そうではなく「お客様」を考えるのがプロであり、誰を意識して仕事をするか、どこを意識をすべきか、そういったたくさんの細々した配慮が集められるところがプロとボランティアの違いだということに途中で気がつきました。

   それを教えてくれたのが「口コミなし」という現実でした。

吉田:興味深いです!

吉原さん:また、プロになりたて当時は今よりおっかなびっくりやっていたことが災いしたのかもしれません。「私に任せてけば大丈夫!」というお客様に安心感を持ってもらえるように対応できず、その感じはお客様に伝わっていたのだと思います。

     オペレーション面でも自分の考えは甘かったですね。

吉田:オペレーション面というと?

吉原さん:やっともらえた初めての口コミが星4つだったんです。お客様はアジアの大家族、14名で奈良に行きました。車イスのおばあさまがいらっしゃるということは事前に聞いていたんですが、毎回のトイレに20分、と予想以上に行動に時間がかかりました。おかげで出発も40分遅れ!食事の予約には遅れてお店の人には怒られるし、8時間のツアーで東大寺と薬師寺しか行けず、全て回りきれませんでした。
ボランティアガイドであれば、「全行程回れないのは仕方ない」と言い放ってしまえるのですが、プロであればそんなこと簡単に言えません。

自分の想像以上に先を読んで、様々な自体に備えておかなければいけないということを学びましたね。

 

 

吉田:実際にプロの通訳ガイドになってみて、1年目はどうやってお仕事を獲得していかれたのでしょうか?

吉原さん:まだまだ新人で経験もなかったので、旅行会社からすぐに多くの仕事をもらうのは難しそうだと考えました。ひとまず個人でFITから始めてみようと通訳ガイド仲間と二人でガイドサービスのサイトを立ち上げました。ホームページをはじめてもアクセス数が少なければツアーの依頼はこないと考え、英語でブログをスタートしたところ、徐々にアクセス数も増え、ツアーを依頼される数も増えていきました。

並行してホームページ以外からのお仕事の依頼もポツポツ増えていきましたね。

 

この行動力のおかげで新人1年目にして既に50ツアーは経験していたという吉原さん。

この経験が他の1年目通訳案内士との差別化に成功、エージェントに選んでもらうのにもとても役に立ったようです。

 

吉田:今でこそ口コミ多数の人気ガイドさんの吉原さんですが苦難もあったそうですね。

吉原さん:はい、初めてのツアーでは先輩ガイドさんと同じお客様を二日間ご案内したのですが、2日目の先輩ガイドさんの評価はべた褒めで5つ星にもかかわらず、1日目の自分はコメントすらもらえなかったんです。この違いは一体なんなんだ...と悩み、そこからはどうしたら口コミをもらえるか、評価してもらえるかを考え抜きましたね。いろいろ悩みながら、試行錯誤しながらガイドの仕事に臨みました。この経験は自分を成長させてくれるいいきっかけになりました。

 

吉田:現在、通訳ガイド4年目。仕事内容の割合を教えてもらえますか?

吉原さん:昨年の実績でいうと自身のホームページ登録しているツアーサイトからが半分、
エージェントさんからのお仕事が半分でした。

   今年はエージェントさんからのお仕事が7、8割を占めています。スポットガイドを中心に仕事をしています。クルーズの仕事や研修の講師の依頼もあります。

吉田:稼働日数はどんな感じでしょう?

吉原さん:今年の3月〜4月はまるまる休みなしでしたね。家族に「サラリーマンでも週一休むぞ」って言われるくらい。(笑)

吉田:ひーーっ!!(汗)
吉原さん:京都のガイドさんはみなさんかなりお忙しいと思いますよ。

吉田:いやいや!!それにしても2ヶ月休みなしはすごいです!繁忙期後は落ち着きましたか?

吉原さん:5月以降は平均週4〜5日くらいですね。

吉田:それでも十分多いです!本当に人気ガイドさんなのがわかりますね!

吉原さん:口コミの効果も大きいと感じています。以前ご案内したお客様の紹介で、フィリピンの方のコミュニティーに広まってフィリピンの家族から依頼がきたりします(笑)。

吉田:この安定力はどこからくるのでしょう?

吉原さん:基本的に「出たがり」なので、ウケたらなんでもよし!そうやって縁が繋がって、紹介されて、続いています。

     あとは例えば、エージェントさんに行く口コミが安定評価されていることでしょうか。おかげさまで以前にさせて頂いたお茶屋遊びなど、定期案件につなげることができています。

吉田:吉原さんの人懐っこさとパフォーマンスの高さ、信頼の高さが他のガイドさんと差がつくところですね。

吉原さん:ガイドのパフォーマンスで言えば、知らないことでも「知らない」とは言わない。知らないことを聞かれてもとにかく何かしゃべる!沈黙はしない。「うーん、おそらく〇〇です」とか言って「おそらく〜」が間違ってることもあるでしょうけど!(笑)あとはその場でささっと、ググってでも返事をします。

吉田:ポジティブな返しがさらっとできるのは素晴らしい素質です!吉原さんだからこそ伝わることも大いにありそうですね。

吉原さん:同じ話でも、同じネタでも「あの人がいうからウケる」というのはありますね。実際に私も先輩ガイドさんが使っていたネタで面白いものがあって自分のツアーで使ってみたら大爆笑!それを「こんなに大ウケするで!」と知り合いに伝え、そのガイドさんも使ってみたところ「全くウケなかったで」と(笑)。盗めるところは盗んでも100%真似てもダメだということですね。面白い要素はもらっても自分のキャラクターに合わせて使う。自分のアピールポイントを研究するのも大切ですね。

 

 

吉田:  ここまで売れっ子ガイドさんになると全ての依頼はお引き受けできないのでは?

吉原さん:横のつながりはとても大切にしています。

     今お世話になっているエージェントさんもそうなのですが、経験を積むにつれ先輩や同期のガイドさんからお仕事を紹介していただくことが増えていきました。自分も回しきれない時は他のガイドさんにお願いすることがあります。紹介する時は自分が自身を持ってオススメできる方に打診します。お会いしてパッとその場の雰囲気が明るくなるような方は誰にでも紹介したいと思うので、自分も常にそうであるように気をつけています。

吉田:吉原さんの明るい話し方や表情は「パッと明るくなる」そのもので他の方が自信を持って紹介したくなるお気持ちはよくわかります!

 

 

 

 

吉田:これから通訳ガイドを目指す方へアドバイスなどありますか?

吉原さん:知り合いになった方は大事にしましょう、ということが一番ですね。

きっかけはどこに転がっているかわかりませんので、私は顔を出せるところにはどんどん出て行き、他のガイドさんを見つけては「いろいろ教えてください!」と積極的に交流を深めていきました。日本人向けのツアーなんですが、自分の勉強のために京都の「ことぶらツアー」に参加したことがありました。ちょうど案内されていたのが通訳案内士の方で、挨拶をしたことをきっかけにFacebookでつながり、その方のご紹介でエージェントさんを紹介してもらうことにもなりました。また、別会社では、先輩ガイドさんと組んで回ることで大人数の回し方を学べましたし、ガイディング以外のオペレーションの大切さも学ぶことができました。

   またFacebookやTwitter、使えるものはなんでも使いましょう。

吉田:SNSを使うというのはどういう方法で使うのでしょうか?

吉原さん:自分がやっていることを発信するツールとして使おう、ということです。自分が日々頑張っていることを隠さず見てもらうということです。「こんなこと頑張っています!」とアピールしつつ、自分ができることはコツコツと気を抜かずに最大限頑張る!すると誰かが必ず見ていてくれて連絡がきたりします。例えば庭園を案内するツアーをしたことを発信すれば、「庭園案内もできる」とどんなスキルを持っているかも伝えることができます。

   また京都は仕事中に知り合いのガイドさんに会うこともよくあるのですが、現場で会った時にガイドさんもお客様も楽しそうな顔をしていたら、紹介したくなりますよね。自分もそうです。紹介してもらえるのは自分からアピールする努力を惜しまないからで、自分はどんなことができるということを見せているからです。そういった日々の小さな「ちょこちょこ」がその時繋がらなくとも、1年後に繋がったりするものです。

たまに自分のところにも「仕事を紹介してほしい」と来る方がいますが「仕事だけ欲しいんです」ではダメで、常に積極的に自分から動いて、仕事はひとつひとつ大切に100%頑張ること!

吉田:こんなに教えてしまっていいの?!というくらいの秘密を聞いてしまった気分です!

吉原さん:私も先輩から「出し惜しみはダメ」と教わったんです。

     オイシイところをもらってるだけの人では成長はありません。

吉田:身にしみます...!本日は貴重なお話、本当にありがとうございました!!