通訳案内士のお仕事にはハプニングはつきもの。

様々な国籍の様々な性格のお客様の予想外な展開に自分やツアーの予定が変更になることもしばしば起こります。今回はそんな記憶に残るハプニングについてガイドさんたちに聞いてみました。

 

 

ショッキングな落し物

FITのツアーでオーストラリア人の男性(20代半ば)を案内した時のこと。

朝ホテルで会うなり「ちょっと厄介なことになった」と言われドキドキしながら話を聞くと、前日成田に到着し、スカイライナーで上野に移動したのだが、どうやら座席にパスポートケース(よくあるジッパーのついた厚めのメッシュな入れ物)を忘れたようだと...。当然パスポートはその中。しかも両替したばかりの現金20万円も入っていたという...。ショック!!

つまり当日現金払いの私のツアー代も払えない...。

うわーーと思いながら京成線落し物窓口やら警察やらに電話をするも特に何も届けられていないと言われる。

ひとまずツアーは置いといて、オーストラリア大使館にパスポート再発行の手続きに行く。パスポート再発行には1週間くらい時間がかかるとのこと。このお客さんは私のツアー後、別会社の2週間ツアーに申し込まれていて2週間後に東京に戻られるのでツアー後取りに来ることになりました。

この日は本当に少しの観光しかできず、私も後からツアー代金回収できるか不安になりながらもお別れしたのですが、落ち込みながらもなんとかポジティブに振舞おうとする彼が不憫でした。その日の最後にも再度鉄道会社などに電話をかけましたがやはり何も届けられていませんでした。

後日、日本滞在時に必要な現金はなんとかご家族から送金してもらえ、ロングツアー中のお金はなんとかなった、と連絡があり私にも多めのチップ付きのツアー代金が現金で送られてきましたが、未だパスポートと20万円は出てこず。安全大国日本もさすがに空港からの電車だと誰が乗ってるかわからないし、20万円も見つけたら持ってかれるよなぁ...と諦めていた矢先、日本滞在最終日に上野の警察からまるまる手つかずのまま見つかったと連絡が!!

彼の日頃の行いの良さが運を行き寄せたんだなぁと安心したハプニングでした。

 

 

 

警察出動。行方不明な娘さん。

それはまだガイド歴も浅い二回目のツアー。

京都観光の日、ホテルは大阪。

父娘で旅行しているお客様がいらっしゃって、午前中の行程が終わったあとは、残り半日自由時間だったので娘さんはご自身で申し込んだ午後からの半日ツアーに参加されたためお父様とは別行動になりました。

そして、夜12時頃。お父様から電話あって、「娘が帰ってこない」というのです。

「年頃の娘さんだし、飲んでて遅くなってるだけじゃないかなぁ...」と思い、「とりあえず待ちましょう」と説得し電話を切りました。

すると、深夜2時頃また電話が鳴り

「まだ娘が帰ってこない、警察を呼べ!」とパニックのお父様。

ホテルカードもわたしの名刺も渡してあり、これ以上できることもなかったので

「朝まで待ちましょう」と提案するもお父様は取り乱して聞き入れてくれません。

その娘さんもがイギリス人の美少女で、自分もまだ新人ガイドで経験が少なくとっさにイギリス人女性殺傷事件がフラッシュバックして...なにかあっても責任とれないと思い、警察に連絡することに。

ホテルから警察に電話していったん警察の方がきてくれたのですが、署に行かなくては捜索願いは出せないと言われると、そこで父親がなぜか「いかん!」と反抗。

「何言ってんの!」と怒鳴りつけてなんとか警察署い連れて行き、明け方までかかって調書を作り、へとへとになってホテルに戻るもろくに寝ることもできず...。翌日はツアー中一番ハードな日だったので、げっそりでした...。

案の定、朝けろりとして帰ってきた娘さん...お父様にこっぴどく怒られていました。

「飲んでて酔っ払って、違うホテルに行っちゃった」とのことでしたが結局真相はわからず...。誰かのところに泊まったんではないかな...と密かに思っています。

 

 

 

中近東のお金持ちが…

私の思い出は、若かりし頃、某大手旅行会社でのバイト中のことです。色々ありましたが、何と言っても中近東のお金持ちが印象的でした…。

空港でピックアップして、ホテルへタクシーでお送りしたら、タクシーの中でいきなりブリーフケースをガバッと開け、ちらっと見ると、そこにはまるでドラマのようにぎっしり詰まったドル札の束、束、束!!

そして、「君、部屋に来ないの?」ですって。

ばっかもーん!大和撫子を見くびるな〜!

皆さん、オイルマネーを持ってるゲストに気をつけましょう!

 

 

一瞬ヒヤリ...気まずい雰囲気

 20人以上のイスラエル人を連れて竜安寺に行ったときのこと。

石庭を見終わった後で一人のお客様が「下駄箱に靴がない」とおっしゃった。下駄箱に残っている靴をよく調べたりしても見つからず、冷静で温厚なそのお客様は顔には出さないけれど心の中では不愉快に思っているだろうことが想像される。外国からのお客様はただでさえアトラクションでいちいち靴を脱ぐという日本独自の文化に面倒臭さを感じているに違いない。

 石庭の受付の人に事情を説明し、紛失した靴が見つかるまでお寺で用意した他の靴で代用をして頂くことにした。しかしお客様は代理の靴を何足も履き替えてもサイズが合わない、履き心地が悪いなど、なかなかスムーズにいかない。グループの他のメンバーもその件で長い間石庭の前のベンチで待たされて次第にじれてきているのがこちらには刺さるように分かる。

グループのお客様にしてみれば「建物内で靴を脱ぐという意味不明な日本の習慣を押しつけられて大人しくしたがっているのに靴がなくなる。悪意ではないとはいえ施設側の管理の悪さではないか」と思っているかもしれない、などと私の頭の中でお客様の心の中で悪態をつくのを勝手に想像し、どんどん暗い気持ちになっていく。

 と、そのとき。グループのお客様から何やらどよめきが。靴がなくなったお客様の奥様が同じグループの他のお客様がその靴を履いていたことを発見したのだ!その奥様がどんな靴だったか、という話をするときにほかのお客様の履いている靴を指して「これとほとんど同じモデルのもの」とか言っている内に、実は同じモデルの靴だったのではなくて間違って件のその靴を履いていたことが判明。間違って靴を履いていたお客様はもちろん靴箱にあった自分の本当の靴を見つけて同じグループ内のミスということで笑い話で済んだ! ふぅ!

 

 

し、死んだ...!?

2週間のハイキングツアーを担当した時のこと。1日目から風邪で体調のすぐれない男性(50代半ば、寡黙で身長が高く、面長のヒゲ長)がいらっしゃいました。

2日目の午後にはバスで河口湖に向かう行程で、午前中のフリータイムも休みたいからホテルにいるというので、

「河口湖に行ってしまうと(そのあと妻籠だったし...ハイキングツアーだったし)病状が悪化した時に大変だから病院に行っておきませんか?」と提案するも頑なに「休めば大丈夫だから」と断られるので、本人がそう言うならと、そっとしておきました。

午後、いざバスに乗り中央道を走行中、そのお客様が急に意識を失われ、頭がガクッと落ち、口から泡を吹いて、腕もブラ〜ン...隣にいた奥様は顔面蒼白。通路を挟んで座っていた私も予想外の展開に「マジかっ!」と焦りました!

ひとまず気道確保し、重い体を引きずって通路に寝かせなんとか呼吸と意識は取り戻しましたが、正直「死者が出たか!」と血の気が引きました。次のサービスエリアで緊急停車してもらい外の空気をしばらく吸わせなんとか再出発し(普通の高速バスで他のお客様もいたので長居はできず...)2日間、河口湖の宿でゆっくりしてもらい、病院嫌いの彼はお医者さんにかかることもなく回復。次の妻籠では14キロをハイキングできるくらい回復してましたが今思い出してもハラハラする思い出です...。

このご夫婦とはこの2週間ツアー後もプライベートで四国ハイキングツアーも担当しましたが、その頃にはもうピンピンでペースについていくのが大変なくらいでした。私の所属していた会社は救急救命法を取得していることは必須だったのでこのスキルの大切さが身にしみました。

 

 

 

若いお客様が集まるグループツアーですとたまに見かけるお客様同士の恋の予感。。。

ツアー最終日の前日、大阪にて。
若いカナダ人(女性)のお客さんが腹痛を訴え、最後のグループディナーは欠席することに。二次会でバーで飲んでいるときに「おなかがすごく痛い。(カナダの)医者である友達に話したら盲腸でだと言われたので病院に行きたい」と電話がくる。グループと一緒に楽しく飲んでいたが、酔いも覚めて走ってホテルに戻り、救急車を呼んだ(初めて救急車に乗った!)。

病院に着くと、すぐに翌日手術することに決定。

(実はこのツアーではTV番組の「あいのり」的な恋愛事情が発生していて、彼女といい感じにあった男の子が彼女が病院に搬送されたと聞き、一人深夜に街中を走り回りどこともわからない病院を探すというドラマチックな展開も起こっていた。)

ツアー後、たまたま数日間大阪に泊まる予定があった私はツアー終了後も毎日病院に通って見舞う。2,3日程度で退院でき、自分も東京に戻るため彼女が予約したあった都内ホテルに見送ってこの一件は無事終了した。

後日談として、彼女はいい仲であった男の子(とその男の子の仲良しメンバー)と宿泊先のパークハイアットにて合流し、楽しい時間を東京で過ごしたようです。彼女はカナダ、彼はイギリスからだったこともあり、恋ははかなく終わってしまったようですが、彼女とはこのことをきっかけにすっかり意気投合し、いまだに仲の良い友達。数か月前日本に来たときも会いました(^^)

 

 

人間、安心すると油断しがちです

グループツアー参加のご夫婦で旦那さんはオーストラリアから来日、奥さんは日本でALTとしての教員の期間を終えて北海道からツアーに合流された方々がいた。

JRパス(Japan Rail Pass) を交換しに行った時のこと。

カウンターのお姉さんから

「すみません、この方は労働ビザなのでJRパスに交換できません」と告げられる。そんなまさかがあったとは!なんでも、ビザ局に行って労働ビザを終了し、新しく観光ビザに切り替える必要ありなんだそう。富士山の登山が組み込まれていたツアーだったので富士山に移動する日に品川のビザ局に寄りビザの切り替えになんとか成功。JRパスもチケットも無事ゲット!と安心したのか、みんなを率いて意気揚々と乗った新幹線がまさかの「のぞみ」...。私たちの新幹線は次に来る予定だったのに、ホッとしすぎていて十分に注意せず、なんの疑いもなく目の前に現れた新幹線に乗ってしまった...つまり新富士駅はスキップ!異変に気付いた私は、ムンクの叫びのごとく両手を頬に口を大きく開けて「はぁぁつ!」と...。それを見たお客さんたちは大笑い。運よく次の駅で降りて本来乗るべきだった新幹線に乗り換え成功したものの、お客さんたちの笑いは止まらず...。

ツアー最終日、お客さんの部屋に呼ばれ行ってみると、お客さん全員で♫Obladi Obladaを歌いはじめ、♪Ob-la-di, ob-la-da,Life goes on, brah♪のbrahの部分を”OH”に変え、みんなで両手を頬に、ムンクの叫び!付きで歌のプレゼントをされました...!

 

 

困ったおばあさま

ボケが結構強いおばあさまがツアーに参加。ツアー初日のミーティングの集合時間に現れないため部屋を訪問してみたところ、のっけから何故かお怒りの模様。これからのツアーが心配になりながらも、結局こちら側になんの非も全くなかったと判明。

最初はボケとは思っていなかったものの、同じツアーに参加されていたお医者さん夫婦が

「あの人アルツハイマー気味よ。見張ってなきゃダメね」とアドバイスをくれる。

フリータイムになるとホテルまでの帰り道が不安なので、お医者さん夫婦にくっついて回る。

しかし残念ながら夫婦は彼女がうっとおしい。おばあさまは妄想癖もあるのか、お医者さん夫婦の旦那は自分のことが好きだという。私のほうがお似合いと。しかし相手に冷たくされると手のひらを返し、攻撃的に。あの夫婦は太っている。食べてばかりだからだ。アメリカ人は・・・などど悪口を他の人に言うので誰からも好かれない...。

彼女とルームメイトはなかなか大変そうで、ガイドとしては平等にみんながその人とルームメイトになるようにローテーションし、みなさん大人でなんとか我慢してくれてよかったが...。

一人天使のように、みんなが嫌がる彼女を相手をしていてくれた女の子がいて、えらいな~と思っていると「わたしだっていつアルツハイマーになるかわからない、いつ彼女のようになるかわからない。彼女もとても不安なのよ。だから助けるのは当然」との答える見上げた彼女。ところが、東京でおばあさまのルームメイトになり、フリーデーのお相手までオファーしてくれて一緒に出掛けて帰ってきたら、天使から鬼に豹変してました...。すごい剣幕で1日の出来事を報告され、聞くと「あなたは、もっと痩せたらかわいいのに」と余計な一言を言われたらしい...。

ツアーは何とか無事終了したものの、後から考えるとツアーから脱退させる権限もあったと思いだし、後悔したものです。ボケてる人を帰国させるのも大変だったとは思いますが...。

私もみんなの負担を減らすべく、彼女とは一緒にいる時間をたくさん作ったけど本当にしんどかった。負のオーラのある人と一緒にいるというのはものすごく神経をすり減らされるものです...。

 

 

まとめ

あいのり的ツアー、私も経験あります!

なぜか若いシングル男女が多く集まった年末年始にかけての2週間ツアーで酔っ払ってみんなで雑魚寝中、こっそりと出ていく二人...。思わず「マンガか!」と突っ込みたくなる楽しいツアー思い出はたくさんありますね。思いがけず自分に降りかかるプラトニックな疑似恋愛的なものも懐かしいです。笑

 

深夜のお客様の病気や怪我などのハプニングはかなり緊張を伴いますが、興味深いことに比較的ガイドの仕事にまだ不慣れな時にやってきたりします。そんな時、お客様を安心させられるのはガイドのあなたしかいません。新人だったとしても、堂々と責任感のある行動ができるようある程度シュミレーションしておきたいですね。